マスク着用困難を理由に解雇された男性の訴訟について調停が成立
1 はじめに
KDDIエボルバで勤務していた40代の男性が、アトピー性皮膚炎によりマスク着用が困難であることを理由に解雇され、2021年3月31日、KDDIエボルバに対して、解雇が不当として大阪地裁へ地位確認等請求訴訟を提訴した件について、2022年12月26日に調停が成立しましたので、ご報告します。
2 執拗なマスク着用指示と雇用打切り
原告は、幼少期から両手に皮膚炎を発症しており、2011年頃にマスク着用を原因として顔が大きく腫れあがるほど皮膚炎を悪化し、それ以来マスクの着用を控えてきました。
2015年10月から、原告は、時給制契約社員として被告のコールセンター業務に従事してきました。
ところが、2020年2月頃からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年10月頃から、原告は会社の上司からマスクの着用を指示されました。
原告が過去の経験から再度皮膚炎が悪化するリスクがあるため、診断書を提出しながらマスク着用が困難である旨を説明しました。また、原告は会社から交付されたマウスシールドを着用していたものの、マウスシールドの着用だけでもあごやひもと顔が接触する部分の皮膚炎が悪化し始めていたので、より顔との接触面が広がるマスクの着用は皮膚炎が悪化する危険性が高いものでした。
しかし、会社は原告に対してマウスシールドではなく、執拗にマスクの着用を求め続け、マスクを着用しなければ契約を更新しない旨を告げました。
既に5年以上の有期雇用を更新していた原告は、会社に対して、無期転換権を行使するとともに、仮に原告がマスク着用に応じるとしても皮膚炎が悪化する場合に備えて産業医の経過観察や悪化時の医療費の負担等を求めたり、マスク着用を回避する働き方として、別室(個室)での勤務や在宅勤務などを提案しましたが、会社は原告の提案を一切拒絶して、原告を他の従業員の安全配慮義務の観点から安全管理や会社秩序を乱す者として、2021年2月28日をもって解雇しました。
3 訴訟の経過
そこで、原告は2021年3月31日に大阪地裁に提訴しました。
訴訟においても、会社は原告がマスクが着用できないことを立証できていないと主張して会社の対応は問題ないと主張しましたが、これに対して、原告はマスクの着用によって皮膚炎の症状が出やすいことなどは主治医の診断書にも記載されており、既にマウスシールドだけでも悪化していることからマスク着用によって症状が悪化する危険性は明らかであることを主張しました。また、大規模な会社であり、既に実施を開始している在宅勤務など他の対応方法が検討可能であるにもかかわらずほとんど検討せずに、マスク着用に固執して解雇することの不合理性を主張しました。
なお、本件では契約社員であった原告と正社員との間で通勤手当等の支給に関して不合理な格差が設けられており、この点について会社に説明を求めても一切説明しないことから、有期パート法8条及び同法14条2項の説明義務に違反するものとして損害賠償請求訴訟を別訴として提起していました。
双方の主張が出尽くした段階で、裁判所から和解が勧められ、2022年12月26日に調停に付したうえで調停が成立しました。口外禁止条項が付されているため具体的な内容は言えませんが、地位確認請求と損害賠償請求の訴訟を両方含めた形で、原告の納得のいく解決金が会社から支払われることで解決となりました。
4 コロナ禍で求められる会社のあり方
コロナ禍において、マスク着用が当然に求められる社会の風潮がありますが、原告のようにやむを得ない事情がある者に対して、他の方法を十分に検討せずにマスク着用に固執し雇用を打ち切ることだけが安全配慮ではありません。安易に少数者の雇用を打ち切らずに従業員の個別事情に配慮して就労環境を整備して、雇用を維持することこそが会社に求められるべきであると考えます。
(弁護団は、河村学弁護士、谷真介弁護士、青木克也弁護士、西川翔大です。)