大阪大学非常勤講師「雇止め不当」無期転換を求めて提訴
1 大阪大学の非常勤講師である4名の原告が、語学等の授業を担当し、半年ないし1年の有期労働契約を反復更新し、通算5年を超えたので、労働契約法18条1項に基づき無期転換権を行使したところ、大阪大学は、非常勤講師らとの間の契約は、2022年4月に雇用契約に切り替える以前は、委嘱契約(準委任契約)であったとして無期転換権の発生を否定し、2023年3月末をもって雇止めすると予告したので、2023年2月9日、期間の定めのない労働契約上の権利を有することの確認と2022年4月1日以降の減額された賃金の支払いを求めて大阪地裁に提訴しました。
2 本件訴訟は、大阪大学側の二重の脱法を許さない闘いです。
第1の脱法は、実質労働者であるのに、契約形式を委嘱契約(準委任契約)として、労働法の適用を免れようとしたことです。原告のうち2名は、旧大阪外国語大学の非常勤講師のときは労働契約で就労していましたが、2007年10月に大阪大学と統合された際に委嘱契約に切り替えられました。契約形式の変更の前後で原告らの就労実態に全く変化はありませんでした。また、2022年4月1日、大阪大学は、文科省の指導を受けて、原告ら4名を含む非常勤講師の委嘱契約を労働契約に切り替えましたが、その前後で原告らの就労実態に変化はありませんでした。
ところで、労働者性は、就労実態に照らして客観的、実質的に判断されるべきところ、大学がカリキュラム,授業期間、授業回数、講義室,受講者等を決定し、非常勤講師は、それに従って、シラバス、授業計画・授業資料の作成、授業の実施、試験問題の作成・採点・成績評価等を行う「授業担当教員」として就労してきたのです。学校教育法上も学長の指揮監督下にある者でなければ「授業担当教員」になることはできないとされています。非常勤講師の就労実態は、指揮監督下で就労する労働者であり、大学側が、契約形式を委嘱契約とすることで、強行法である労働法を脱法することは許されません。
第2の脱法は、2023年3月末で、労働契約法18条施行後10年となるので、無期転換権の行使を回避するための雇止めであるということです。
仮に、準委任契約であれば、5年の無期転換を定めた労働契約法18条や10年特則を定めた大学教員任期法(以下「任期法」といいます)の適用はないはずです。にもかかわらず、大阪大学が、非常勤講師を10年経過前に一律に雇止めする(その後、半年間のクーリング期間を設けて公募する)のは、非常勤講師の実質が労働者であるがゆえに無期転換を回避する目的であることは明らかです。大阪大学の理事も、5年上限、10年上限を設けたのは、非常勤講師として業務に従事した期間も労契法18条の適用を受ける可能性を完全に否定できないからであると述べています。
なお、私も弁護団の一員である羽衣学園事件・大阪高裁判決(令和5年1月18日言渡)は、任期法が、「私立大学については任期を定めることが合理的な類型であることを明確にする趣旨で立法され、その後、労働契約法18条1項所定の通算契約期間を伸張するための要件とされていることを考慮すると、『先端的、学際的又は総合的な教育研究であること』を示す事実と同様に、具体的事実によって、根拠づけられていると客観的に判断し得ることを要する」と限定的な判断枠組みを示したうで、介護福祉士の養成課程の講師であった控訴人の職務について「研究という側面は乏しく、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当するということはできない」とし、任期法4条1項1号の該当性を否定し、労契法18条1項によって5年で無期転換していることを認めて、労働契約上の地位確認と賃金支払いを命じました。
本件においても、原告らの語学等の授業は、研究という側面に乏しく、大学以外から「多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職」に該当するということはできないのであって、任期法4条1項1号に該当せず、労契法18条1項の5年無期転換の適用があり、原告らはすでに無期労働契約となっており、大学側が原告らを雇止めすることはできないというべきです。
3 今回の提訴は、2023年3月末で改正労契約法施行後10年を迎える大学等の期間雇用教員等が雇止めの危機にさらされている、いわゆる「2023年問題」と時期的に重なり、大きく報道されました。記者会見で原告らは「なんら問題行動がないにもかかわらず雇止めされることに強い憤りを感じる」「不安定な非常勤講師は,劣悪な労働条件のもと、何の身分保障もないまま,常に生活の不安を抱えながら生きています。原告となった4人以外に、声を上げることすらできない、非常勤講師が何十人もいます」「大阪大学には労契法18条で定められた無期転換という最低限のルールを守ってほしい。この国に生きる同じ人間として認めてほしい、という思いでいっぱいです」と訴えました。大阪大学は、この非常勤講師の声に真摯に耳を傾けて欲しいものです。
ところで、大学は、「学術の中心として、広く知識を授けるともに、深く専門の学芸を教授、研究し、知的、道徳的及び応用能力を発展させることを目的」とし「その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する」(学校教育法83条)とされていますが、その大学が、法の抜け道を探し、弱い立場にある非正規労働者の権利を蔑ろにすることは大学の設置目的や役割からも到底許されないことです。
今後、原告団、弁護団は、大阪大学による労働法の脱法を許さず、非常勤講師の無期転換による雇用の安定を目指して、全国の非正規雇用の皆さんと連帯して勝利を目指します。