「求人詐欺」にご用心!
最近、「求人詐欺」という言葉を耳にするようになりました。
ハローワークの求人票や求人サイトに掲載されていた内容と、実際に入社して働き始めてからの労働条件とが違っていて、だまされた!という問題です。
・掲載されていた金額よりも給料が低かった。
・残業代が込みになっていた。
・正社員募集だったのに、研修や試用期間中は正社員ではなかった。
・実働8時間と書かれていたのに、実際には毎日12時間以上働かされている。
などがよく問題になります。
職業安定法では、ハローワークに求人を出す企業は、業務内容・賃金・労働時間などの労働条件を明示しなければならないと定められています(職安法5条2項)。また、新聞や求人広告に求人を出す際には、労働者に誤解を生じさせないように平易で的確な表現に努めなければならないとされています(職安法42条)。
しかし、これらに違反しても罰則はなく、これまでは求人詐欺はほとんど野放しにされてきました。なお、虚偽の広告を出して求人募集をした場合には、「6月以下の懲役、又は、30万円以下の罰金」という罰則がありますが(職安法65条8号)、故意の立証が難しいため、この罰則が適用された事例は過去に1件もありません。
他方、民事の裁判例では、求人の際に示された労働条件は、特段の事情のない限り、労働契約の内容となり、使用者はそれに拘束されると判断されている例が多くあります。
①ハローワークの求人票に「退職金あり」「退職金共済に加入」と記載されていた会社に入社して、7年4ヶ月後に退職しましたが、会社には退職金規程がなく退職金共済制度(中退金)にも加入していなかったため、退職金が支払われなかったという事案で、大阪地裁平成10年10月30日判決は、「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情がない限り、雇用契約の内容になる」として、退職金共済制度に加入していたとすれば得られたであろう退職金と同額の支払を命じました。
②求人広告で、「就職支度金20万円」、「2種免許取得費会社負担」と掲載していたタクシー会社が、入社から1年半ないし2年後に退職した労働者に対して、「800乗務日以内に退職した場合は全額返還してもらう」として、就職支度金や免許取得費用の返還を請求した事案で、大阪高裁平成22年4月22日判決では、求人広告で貸付金であるとの記載がなかった点を重視して、会社からの返還請求を否定しました。
このように、「求人詐欺」にだまされて入社してしまった場合でも、求人票や求人広告の記載どおりの労働条件を主張できる場合もあります。おかしいな?と思ったらぜひご相談ください。