五條市残土処分場仮処分申請事件
事案のあらまし
2016年7月22日、奈良県五條市田殿町及び火打町に居住する住民が、残土最終処分場に形成された盛土から土砂が崩落し、市道の通行に危険が生じており、また、水路に土砂が流入し農業用水の使用に支障が生じているとして、残土処分場を操業する五條開発株式会社、及び市道の所有者(管理者)である五條市に対し、残土処分場において崩落の危険のある土砂の撤去及び流出対策防止措置等を求めて、奈良地裁五條支部に仮処分を申請しました。その後奈良地裁本庁に移送されて審理中です。
これまでの経過
1997年、五條市・火打町で岡三興業による産業廃棄物処理場建設計画に対して、反対する住民団体が結成されました。池田直樹弁護士と私が住民団体の顧問になり、監視活動と反対運動を展開した結果、計画は止まりました。2007年頃にも、有限会社砂貴が残土処分場としての操業を始めましたが、公共残土搬入のための必要な隣接地同意を住民が拒否し、同社も撤退しました。
五條開発による大量の残土の搬入と盛土崩落の危険性
ところが、五條開発株式会社が、2014年7月、砂貴から残土処分場を購入し、関西圏内の建設業者から大量の残土を受け入れを始めました。大型10トンダンプで次々と残土を搬入し、樹木を伐採しブルドーザーやユンボなどの重機を用いて山のように積み上げていきました。こうしてできた巨大な盛土は、高さは優に20メートルを超え、勾配は少なくとも45度以上の急勾配のものとなりました。
盛土は、多数の建設現場から搬入された様々な種類の残土で形成されていますが、五條開発は重機等を用いた締固めを行っておらず、また、水抜き(排水)の措置を行っていません。そのため、雨が降ると、盛土の土砂が滑って崩落しやすい状態となり、これまでも、大雨が降った後など本件盛土から大量の土砂や雨水が、下部に位置する本件道路や水路に流入することが繰り返されております。
最近では、2016年7月9日、9月6日の大雨のときは土砂で道路が通行できなくなりました。また、水路がふさがり、1週間近く田畑に農業用水が来なくなりました。
大阪府豊能町でも「大成商事」が経営していた残土処分場で大規模な土砂崩れが発生し、近隣に大きな被害をもたらしました。その代表者は、砂防指定地管理条例違反で懲役3年執行猶予5年の有罪判決を受け、府が府道の復旧するのに10億円の費用を要しました。
本件の残土処分場でも、そのうちに大規模な崩落が起こり、本件道路を通勤・通学や水路管理のために通行する人の生命に危害が及ぶのではないかと危惧されています。また、水路がふさがり、農業用水が使えなくなることは、米やなすび、柿などを栽培している農家にとって死活問題となります。
仮処分申請によって五條開発は、残土搬入を停止しました。しかし、盛土の一部を撤去したり、場当たり的な措置をするだけで、根本的な危険の除去や対策を行おうとしません。
五條市も、市道認定している本件道路や水路に量の土砂が流れ込み、通行人の生命に危害が及び、水路がふさがり農業に打撃がある状態であるにもかかわらず、五條開発に対して有効な措置をとっていません。 裁判所のなかで、業者と行政に盛土撤去と有効な対策をとるように迫っていきたいと思います。
残土問題の抜本的解決を
産業廃棄物は、大阪など都会で発生したものが、和歌山県、奈良県の山間部で不法投棄されたり、廃棄物処分場に埋め立てられ、水を汚染するなど環境問題を発生させてきました。
廃棄物処分場については、廃棄物処理法の規制がありますが、残土処分場にはまだ全国的な法律の規制がありません。大阪府には残土条例が制定されましたが、奈良県には条例はなく、五條市にもこの問題が起こる以前には条例がありませんでした。そのために大阪などで発生した建設残土が規制のない奈良県に持ち込まれ、五條開発のような業者が安全そっちのけで残土を積み上げ、住民の命や農業を危険にさらしているのです。
規制のないところに建設残土は流れていくのであり、残土問題を全国的に規制する法律が求められていると思います。