政府「働き方改革」の「同一労働同一賃金」とは
昨年来,政府は「働き方改革」の目玉として「同一労働同一賃金」ということを言いだしました。長時間労働「規制」や残業代ゼロ法等も含めた「働き方改革一括法」はすでに法律案要綱が策定され,来年の通常国会にも審議される見通しです。
「同一労働同一賃金」というものは,この度政府が言い出したものではなく,とりわけ女性差別の観点から,賃金差別をなくすために早くから確立している国際労働基準です。ILOでは,1951(昭和26)年に,同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(100号条約)が締結され,日本も1967(昭和42)年に批准しましたが,国内法が整備されず度々ILOから勧告を受けてきました。
いわゆるジョブ型雇用(労働者が就く職務を明確にして採用される)や産業別労働組合をとる欧州では,1990年代以降,雇用差別(パート,有期,派遣)についても禁止する指令が次々に出され,各国で国内法も整備されました。しかし,生活給,年功序列型(メンバーシップ型ともいわれます)の賃金制度をとり,労働組合も企業別労働組合が主であった日本では,労働組合(特に大企業労組)の側からも雇用格差の問題について取り組みが進んできませんでした。
今回,政府の「働き方改革」でまず押さえなければならないのは,労働者保護の観点から言い出されたものではないということです。ここでは「多様な働き方」が強調され,一括法の一つである雇用対策法には目的として「労働生産性の向上」が明記されています。結局,アベノミクスの行き詰まりや少子高齢化社会で見越される深刻な労働力不足を解消し,労働生産性を高めるために言い出されたものなのです。
中身をみても,「同一労働同一賃金」関係の法改正案は実に中途半端です。昨年12月に発表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」では,賞与や手当については一定の前進がみられるものの,労働条件の根幹である基本給については,職務給(職務に伴った賃金)的発想はありません。法律案要綱も,パート労働法のみにあった均等待遇規定を有期労働者や派遣労働者にも創設すること,パート労働法及び労働契約法(有期労働者)にしかなかった不合理な労働条件の禁止規定を派遣労働者にも創設すること,労働条件の格差について使用者に説明義務を課すこと(立証責任を負わせることではありません),ADR(裁判外紛争解決制度)を創設すること等にすぎません。「同一労働同一賃金」とは名前だけで,「ないよりはまし」程度の法改正案にすぎません。
このようなものを「法案の目玉」として,政府は問題の大きい残業代ゼロ法や裁量労働制の拡大とともに一括して審議して通してしまおうとすることが予想されますが,絶対に許してはなりません。