任意後見契約について(高齢者にまつわる法律問題・第2回)
弁護士中西基です。
今回は、「任意後見契約」についてのお話です。
いまはまだまだ元気で、なんでも自分でできているから大丈夫だけれど、
もし事故にあって動けなくなってしまったり、病気で倒れてしまったりしたとき、どうしたらいいんだろう?
自分でも分からないうちに認知症が進んでしまって自分のことが自分でできなくなってしまったらどうなるんだろう?
病院や施設で亡くなったあと、お葬式とか身の回りの整理なんかはどうなるんだろう?
お一人暮らしの方、近くに頼りにできるお身内がいらっしゃらない方は、そんな不安をお持ちかもしれません。
判断能力が不十分となってしまった方のために、民法では、「成年後見制度」というものがあります。
判断能力が不十分なご本人に代わって「後見人」などがご本人のために財産管理や身の回りの手続きなどをしてくれるという制度です。
「成年後見制度」には、「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
「法定後見」とは、判断能力が不十分となってしまった場合に家庭裁判所が後見人を選んでくれる制度ですが、誰が選ばれるかはわかりません。
これに対して、「任意後見」とは、あらかじめ自分が元気なうちに、もしものときにはこの人に後見人を頼みたいという契約(「任意後見契約」)を結んでおくことで、将来、自分の判断能力が不十分になったときには、その方が後見人に選ばれるという制度です。
後見人に何をしてほしいのか、自分が老後をどうやって過ごしたいのか、といったことも、契約に盛り込んでおくことができます。
法定後見よりも、任意後見の方が、ご自身の自己決定が尊重されるという点で優れています。
任意後見契約で、後見人になってもらう相手(「任意後見受任者))は、誰でもかまいません。ご自身の親族に依頼される方もいらっしゃいますし、弁護士が任意後見受任者となることも多いです。
契約した相手(任意後見受任者)は、定期的にご本人と連絡をとり、ご本人の判断能力が低下してきた時点で家庭裁判所に連絡して、「任意後見監督人」を選任してもらいます。任意後見受任者は、正式に任意後見人となって、任意後見監督人の監督のもとに、本人のために活動を開始します。
後見人の活動に対する報酬も、あらかじめ任意後見契約のなかで定めておくことができます。
弁護士が任意後見人をお引き受けする場合には、月額3万円程度の後見人報酬を定めておくことが一般的ですが、具体的には任意後見人にどのようなことをどこまで頼みたいのかによって報酬の額も決めていくことになります。
また、任意後見人に対する報酬とは別に、任意後見監督人に対する報酬(月額1~2万円程度。家庭裁判所が決定します。)も発生します。
法定後見の場合は監督人が選任されない場合もありますが、任意後見の場合は任意後見人と任意後見監督人が必ずセットになります。
そのため、任意後見人と監督人の報酬が二重に発生してしまうことがデメリットとされています。
自分で選んだ人に任意後見人になってもらえること、家庭裁判所が選ぶ監督人が監督してくれるという安心という利点との比較によって、
任意後見を選ぶかどうかご判断いただくことになります。
任意後見契約を結ぶためには、公証人役場で公正証書にしておかなければなりません。
契約を結ぶにあたっては、公正証書作成手数料(数万円)が必要です。
また、当事務所で弁護士が任意後見受任者として任意後見契約を締結する場合には、弁護士費用として20万円(消費税別途)をいただいております。
任意後見は、ご自身がお元気なうちに契約をしておきますが、実際に後見人が仕事を開始するのは、ご自身の判断能力が低下した後になってからです。
まだお元気なうちから、財産管理や身の回りの手続(施設への入所契約など)を依頼する場合には、任意後見契約とは別に、「財産管理等委任契約」を結んでおくことになります。
また、ご自身がお亡くなりになった後の葬儀の手配や身辺整理などについては、別途、「死後事務委任契約」を結んでおくことになります。
お亡くなりになった後の遺産については、「公正証書遺言」を作成しておくことをお薦めしております。
「財産管理等委任契約」+「任意後見契約」+「死後事務委任契約」+「公正証書遺言」をセットで結んでおけば、安心です。
大切なことは、ご自身の意向・考え方・生き方を、契約の内容に十分に盛り込んでおくことです。
当事務所では、おひとりおひとりのご意向を踏まえて、最適・最善の方法をご提案しています。
詳しくは、当事務所までご相談ください。