フジ住宅ヘイトハラスメント裁判・最高裁で原告勝訴が確定しました
フジ住宅ヘイトハラスメント裁判で、最高裁が、昨日(9月8日)付けで、昨年11月18日に大阪高裁が、
① 人種差別資料の社内配布行為
② 教科書採択運動の従業員の動員行為
③ ①及び②について提訴した原告を非難等する資料を社内で配布する行為
につき、
フジ住宅株式会社及びその代表取締役今井光郎会長に対し、
・132万円の損害賠償の支払い
・上記①及び③の資料配付の差止め
を命じた判決を、確定させました。
原告弁護団の声明をご紹介します。
2022年9月9日
声 明
フジ住宅ヘイトハラスメント裁判原告弁護団
1 東証プライム(旧「一部」)上場企業であるフジ住宅株式会社に勤務する在日コリアン3世の女性である原告が、フジ住宅が職場で人種民族差別的資料の配布したこと、及び社員を特定の教科書を公立中学校で採択させる運動への動員したこと、並びにそれらの行為によって精神的苦痛を受けたとして慰謝料を求めて提訴した原告を非難する感想文等の資料を配布したことに対し、フジ住宅及び同社の今井光郎会長を被告として、損害賠償及び資料配布の差止めを求めた訴訟について、本年9月8日、最高裁判所第1小法廷(裁判官山口厚、深山卓也、安浪亮介、岡正晶、堺徹)は、損害賠償として132万円の支払いを命じるとともに資料配布の差止めを命じた控訴審の判決(2021年11月18日大阪高等裁判所第2民事部)に対するフジ住宅及び今井会長の上告を棄却し、上告審として受理しない旨の決定をした。
2 これにより、上記控訴審判決が確定し、フジ住宅及び今井会長が行った、①社内で全従業員に対して人種民族差別的資料を大量かつ反復継続的に配布した行為、②地方自治体における中学校の教科書採択にあたって全従業員に対して特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に動員した行為、及び、③本件訴訟の提訴後、社内で原告を含む全従業員に対し原告について「温情を仇で返すバカ者」、「腹が立って・殴り倒してやりたい気持ちです(中略)クズと関わっても仕方ありません」「原告は今も在籍して働いていると思うと虫唾が走ります」「他を陥れることに心血を注ぐ生き方ではなく、在日としての過剰なまでの被害者民族意識を捨て、もっと日本の良さに目を向けられれば、人生も変わっていただろうと思います」などと侮辱・差別的悪罵に加え身体に対する攻撃までほのめかす内容の従業員の感想文等を大量かつ継続的に配布した行為の違法性があることが司法の場において確定された。
3 このたび最高裁が確定させた控訴審判決は、民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益を認め、これを前提に、人種差別撤廃条約や、いわゆるパワハラ防止法の趣旨にも言及した上で、使用者が、労働者に対する職場環境配慮義務として、民族的出自等に関わる差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけでは足りず、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が使用者自らの行為又は他者の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることがないよう配慮する義務があると認めた。また、控訴審判決は、一審判決でその行為の違法性が認められた後もフジ住宅及び会長が上記①及び③の行為を続けたことなども踏まえて、対象を㋐韓国の民族的出自等を有する者又は韓国に友好的な発言若しくは行動をする者に対する侮辱の文書及び㋑原告を批判し又は誹謗中傷する文書と特定した上で配布差止めも認めた。
このように職場における労働者の人格的利益及びその保護のために課せられた使用者の義務を明確に示し、さらに原告の被害を適切に捉え、その人格的利益の実効的な保護を図るために差止めまで認めた控訴審判決を最高裁が支持したことは高く評価できる。
4 また、このたびの最高裁決定は、特定の者を名宛人としていない人種民族差別的行為について、不法行為に基づく損害賠償及び差止めに係る違法性を認めたものである。日本の法制度においては、不法行為に基づく請求をするには当該請求者の権利利益が侵害されたといえる必要があるところ、これまでの司法判断では、特定の者を名宛人としない差別的行為(例:公道や、テレビ、ネット上でなされる特定の属性に対する差別的言動)がなされる場合、個人の権利利益が侵害されていることを認めず、不法行為に基づく請求権を否定してきた。しかし、このたび最高裁が確定させた控訴審判決は、上述のとおり、自己の民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益を認め、自己が明示的に名宛人とされていなくても不法行為上の請求ができることを認めたのである。
5 当弁護団は、フジ住宅及び今井会長に対し、確定した司法の判断を真摯に受け止め、その理解を深めて、①人種民族差別的資料の配布や教科書採択への動員行為等、労働者の職場における人格的利益を侵害する行為を二度と行わず、②すでに社内に蔓延している差別的思想・差別的言動を排除するために必要な措置をとり、③人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法、労働法令の遵守、並びに、④役職員の人種・民族的多様性及び信条(政治的信条を含む。)の多様性の尊重を事業運営の基本に据えるよう強く求める。
また、あらゆる職場で、労働者が民族的出自等に関わる差別的思想にさらされず、そのような差別的思想が放置されることのない環境で就労できるよう、使用者に対し、差別的言動や思想良心の自由を脅かす言動を行わず、差別的思想が醸成されることのないよう配慮することを求めるとともに、労働者に対し、このような配慮を尽くすよう使用者に求めることを呼びかけるものである。
以上