不更新条項とどう闘うか。
正社員(無期雇用)と有期雇用
正社員は、雇用期間の定めがありません(無期雇用)。正社員を解雇する場合には、客観的で合理的な理由が必要となります(労働契約法16条。「解雇法理」といいます)。
これに対して、雇用期間の定めのある方(有期雇用)の場合は、あらかじめ定められた雇用期間が満了すれば、契約は終了することが原則です。そのため、使用者にとっては、何の理由もなく労働者を使い捨てにすることができ、有期契約労働者の雇用は不安なものになります。
雇止め法理
しかし、有期雇用であっても、雇用期間が反復更新されて、有期労働者にとって今後も雇用が継続されるだろうという合理的な期待が生じた場合には、解雇法理を類推して、客観的で合理的な理由が必要であるという判例法理(雇止め法理)が確立しており、労働契約法19条に立法化されました。
不更新条項とは?
この雇止め法理(労働契約法19条)を潜脱しようとするのが「不更新条項」です。
私が、担当した近畿コカ・コーラボトリング事件(大阪地裁H17.1.13、労判893-150)では、20年近く、雇用期間1年の契約が更新されていた契約社員が、最後の契約書に挿入されていた「この契約は更新しない」という不更新条項に気がつかず、毎年の同様の契約書であると誤信してサインしたところ、期間満了を理由に雇い止めされました。
大阪地裁は、労働者が、不更新条項に気がつかなかったはずはないという理由から、不更新条項は有効であるとして期間満了で雇用契約は終了するとして、原告敗訴の判決を下しました。
その後、同様に不更新条項の効力を巡って多くの裁判が争われており、その結論は分かれています。
不更新条項の問題点と対抗策
不更新条項で問題なのは、不更新条項に気がついていたとしても、契約書にサインしなければ、その時点で契約を更新されず雇い止めされ、サインすれば1年後に期間満了で契約が終了することになるという労働者を極めて不当な立場に追い込むことにあります(「前門の虎、後門の狼」といえます)。
では、不更新条項とどう対抗すればよいでしょうか。
まず、不更新条項の挿入された契約書にサインを迫られた場合、不更新条項に抹消線を引いてサインするか、あるいは、別途不更新条項を認めないという通知を送るなど、不更新条項に異議をとどめておけば、不更新条項が有効に成立したとはみなされません。自分一人で対応できないのであれば、労働組合や弁護士に相談しましょう。
次に、不更新条項の挿入された契約書にサインしてしまった場合は、後からどう争えばよいでしょうか。
不更新条項の効力を否定するために判例・学説で様々な試みがなされていますが、最近出された山梨信用組合事件最高裁判決(平成28年2月19日)の考え方を援用して、不更新条項を含む契約書が作成された経緯等からして「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」かどうかを問題にすべきだと思われます。不更新条項は、労契法19条の潜脱を図るものであり、労働者にとって雇用喪失という大きな不利益をもたらし、他方で何の利益や代償措置もないのですから、労働者の自由な意思に基づくものとはいえず、無効というべきでしょう。