働く人のためのコロナ関連Q&A「テレワーク・在宅勤務」
Q.会社から在宅勤務を命じられています。「家にいるのだから」という理由で給料の6割しか出ません。在宅勤務の場合、給料が減額されることはやむを得ないのでしょうか。
A.在宅勤務であるからといって、給料などの労働条件を一方的に不利益に変更することはできません。
また、在宅勤務も在宅とはいえ労働時間に変わりありません。在宅勤務を命じられた労働者は、きっちりと労働時間に即した賃金を請求する権利があります。
1 労働条件の不利益変更について
(1)労働契約の原則
使用者と労働者の労働契約の内容は、原則として労使間の合意によって定められます。
もっとも、一人一人の労働者と労働条件を定めなければならないとすると、手続自体が煩雑になりかねず、労働者間の不公平を招くことにもなりかねないため、例えば所定の労働時間や賃金、手当などに関する詳細が就業規則で定められています。
この就業規則は合理的な内容であり、労働者が知ろうと思えば知りうる状態にあれば有効なものとして、労働者に適用されます。
(2)労働条件の一方的な不利益変更は許されません
原則として一方的な労働条件の不利益な変更をすることはできません。
労働条件の不利益変更が認められるのは、①労使間で個別の合意がある場合、②変更内容の合理性が認められる場合に限られます。
したがって、原則として使用者側の都合で一方的に賃金等の労働条件を下げることは許されず、その変更内容が合理的なものかを確認する必要があります。
2 労働時間の管理について
(1)労働時間とは
労働基準法上の労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。
そして、労働時間に当たるか否かは、労働契約や就業規則など形式的な規定によらず、実質的に使用者の指揮命令下に置かれているか否かで判断すべきとされています。
また、使用者の明示的な指示があった場合のみならず、使用者が具体的に指示した仕事が客観的にみて、法定労働時間内に終わらせることができないことが容易に認識しうるのに黙認している場合には、黙示的な指示があったものとして労働時間であると認められています。
(2)労働時間と事業場外みなし労働時間制
ア 労働時間の基本
労働基準法上の法定労働時間は1日8時間、週40時間と決められています。
ただし、労使間で三六協定を締結し、所轄労働基準監督署に提出している場合に限り、法定労働時間を超えて働かせることが許されます。法定労働時間を超えると時間外労働として残業代を支払わなければなりません。
在宅勤務といっても、現在は、会社側でパソコン等の情報機器通信を活用して、労働者の労働時間管理が可能な場合が多く、このような場合には、通常どおりの労働時間法制が適用されます。
在宅勤務だからといって、「労働時間が算定し難い」というわけではありません。
在宅勤務者は、会社に対して、情報機器通信を活用して始業・終業の報告・業務日報の提出やクラウドによる勤怠管理などきちんと労働時間を管理する体制が徹底されるように求めていくことが重要です。
また、新型コロナウイルスの影響によりテレワークを新規に導入しようとする事業主に対して国から1企業あたり上限額100万円の助成金が施されます。これにより、テレワークを導入する事業主は、テレワーク用の通信機器の導入・運用、就業規則・労使協定等の作成・変更などの取り組みを進めることができます。
詳しくは以下の厚労省のページでご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html
イ 例外的な労働時間管理制度(事業場外みなし労働時間制)
労働時間を管理する体制を整備できない場合に限って、例外的に「事業場外みなし労働時間制」を導入することができます。
「事業場外みなし労働時間制」とは、労働時間の管理が困難な場合に、所定の労働時間を働いていたものとみなす制度です。
しかし、「事業場外みなし労働時間制」を導入する場合には次の条件を満たす必要があるとされています(厚労省「テレワーク総合ポータルサイト」より)。
① 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
② 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
すなわち、インターネットを通じてメールなどにより常に使用者の業務の指示に即応しなければならない場合には事業場外みなし労働時間制の導入は認められません。
③ 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。
ここでの業務に関する具体的な指示とは、「業務の目的、目標、期限等の基本的な事項を指示することやその変更を指示することなどは含まれていない」とされています。
事業場外みなし労働時間制を導入する場合には就業規則に規定することが必要となり、就業規則などで定められた「所定労働時間」を労働したものとみなされます。
また、「所定労働時間」を超えて働くことが必要な業務については、その業務を行うのに「通常必要とされる時間」働いたものとみなされます。この場合も、通常の労働時間法制と同様に、所轄の労働基準監督署に「事業場外みなし労働時間の協定届」を届け出る必要があります。
もっとも、事業場外みなし労働時間制度は、どれだけ長時間の労働となっても所定労働時間しか働いたものとみなされず、時間外労働を管理することが困難なものであるため、あくまで例外的に適用されるものです。
現在テレワークを導入するための助成金もあることから、事業主では、まず助成金の申請を行った上で、通常の労働時間管理を行うように整備していくことを検討すべきであり、安易に事業場外みなし労働時間制を導入させないようにすることが重要です。
(この記事を書いた弁護士:西川翔大)