公害の原点・水俣病被害者の救済を!県外居住者を含めて!〜ノーモア・ミナマタ近畿第二次国賠等請求訴訟の展開と被害者救済の課題〜
1.はじめに
現在、熊本、大阪、東京の各地裁に未だ救済されない水俣病被害者が、国、熊本県、チッソを被告として救済を求める損害賠償請求訴訟を起こしています。熊本地裁の原告は1311名、大阪地裁の原告は130名、東京地裁の原告は67名の合計1500名を超える人数に達しています。
水俣病が公式確認されて既に61年の歳月が経過し、国が水俣病をチッソの工場排水に起因する公害病と認めてからでも既に50年の歳月が経過しています。この間、2004(平成16)年には最高裁判所が水俣病関西訴訟において、水俣病の発生と拡大を放置した国と県の責任を認めているにもかかわらず、です。
近畿訴訟や東京訴訟の原告らは、水俣病関西訴訟の原告らと同様に、昭和30年代から40年代にかけて、漁業の崩壊や集団就職のため地元から近畿や関東に移住して来た人達です。近畿訴訟の原告には岡山や名古屋周辺に移住して来た人達も含まれています。
どうして未だにこのように多くの被害者が未救済のまま取り残されているのか、救済の課題は何なのかを、この場を借りてご報告します。
2.未救済の水俣病被害者の広がり
チッソは有毒なメチル水銀を含む工場排水を無処理のままに1932(昭和7年)〜1968(昭和43)年に渡り36年間もの間、水俣湾に排出し、不知火海全体を汚染してしまいました。
また当時の不知火海沿岸に居住していた住民は少なくとも20万人を超えると言われています。すなわち汚染された魚介類を多食して水俣病に罹患した可能性のある潜在的患者はそれ程の多数にのぼるのです。
ところが、水俣病の発生と被害の拡大にもかかわらず、行政は食品衛生法に基づく患者の調査や汚染の調査をなさないままに、これを放置してきました。そのために正確な汚染の実態や被害の広がりの全貌を科学的に把握することがないまま今日に至ってしまったのです。そして、一方で被害者の救済を求める声が大きくなるとその場を繕うだけの救済策がとられ、他方では多くの潜在的被害者が切り捨てられてきました。
本来被害者救済のシステムとして有効に機能することを期待されていた公害健康被害補償法に基づく認定制度は、複数の症状の組み合わせを要求(52年判断条件)して患者を切り捨て、これまでに僅か3000名程の被害者しか救済していません。認定基準が厳格すぎて多くの被害者が切り捨てられていることについては、裁判所の判決でも何回も批判されているところです。しかし国は、行政と司法は別との驚くべき暴論で認定制度の改善を拒否して来ました。
その後、国と熊本県を被告とした三次訴訟と呼ばれた闘いの政治解決により、12,000人を超える救済が実現しましたが、これは国や熊本県の法的責任を明確にせず、また救済対象者を水俣病被害者とは明確にしないなど不十分な側面を残していました。
3.水俣病関西訴訟最高裁判決と特措法
その後水俣病問題をめぐって新たな局面、展開をもたらしたのは、水俣病関西訴訟において2004(平成16)年に国と熊本県の責任を認める最高裁判決が確定したことです。この判決を契機にして未救済の潜在被害者多数が救済を求めて、8000名を越える被害者が公健法による認定申請をなし、また2005(平成17)年10月以降、ノーモア・ミナマタ第一次国賠訴訟が、熊本、大阪、東京の各地裁で提起されるに至りました。この結果、2010(平成22)年には原告団約3000名が救済された他、新たに水俣病被害者救済特措法が制定され、3万人を超える被害者が救済されました。
しかし、環境省は被害者団体の反対を無視して、救済申請受付を2012(平成24)年7月に打ち切ったうえに、更には水俣の対岸である天草等での汚染を対象地域外として否定し、また1969(昭和44)年以降は汚染は解消されたとしてその後の被害者発生を否定するという、二重の線引きによる被害者切り捨てを強行するに至りました。このため被害者として救済を拒まれた多数の被害者達が、再びノーモア・ミナマタと被害者救済を求めて、提訴を余儀なくされることとなったのです。これが現在のノーモア・ミナマタ第二次国賠訴訟です。
ちなみに左の図は不知火海沿岸住民の大検診の結果で、沿岸住民全体に被害が広がっていることが判明します。また、原告らの居住地もこれと重なっています。
4.訴訟の展開と課題
ノーモア・ミナマタ第二次訴訟は、熊本で2013(平成25)年6月、東京で2014(平成26)年8月、大阪で2014(平成26)年9月に提訴されており、既に熊本では4年以上経過し、これからいよいよ判決に向けての本格的主張・立証が展開されようとしています。
被告である国らの訴訟にのぞむスタンスは、既に水俣病問題は解決した、被害者はいないとの対応であり、そのため各原告の症状は水俣病ではない、他の病気ではないか、医師の診断書自身が信用できない等とする全く不当なものであり、関西訴訟で認められた責任を全く放棄する姿勢に終止しています。しかもこの間の特徴は、特措法により救済を受けた人たちも必ずしも水俣病被害者とはいえないという特措法の趣旨に違反する主張を平然と主張するまでに至っていることです。
すなわち、特措法は救済対象者を水俣病被害者として受け止めて救済するとしているのに、それさえ無視するに至っているのです。
これは、特措法で救済を受けた人々の中には、地域外、年代外とされる人々が実際には多数含まれていることから、これらの人たちを被害者と認めると、地域外、年代外の線引きと明らかに矛盾するためです(左の「水俣病特措法の結果」を参照してください)。
これは、被告らの主張の破綻と弱点をはっきりと示すものと言えます。
5.おわりに
公害の原点である水俣病被害者の救済が、既に61年も経過する中で、未だに未救済のままで多数存在し、しかもこれらの被害者が全国に散らばっていることは、必ずしも充分に知られていません。また、国らは水俣病問題は終わった、被害者はいないと誤った姿勢を改めようとしていません。水俣病被害者の救済のためには、何よりも多数の被害者が未救済のまま放置されているという事実を広く知って頂くことが出発点です。法廷傍聴への参加を始めとして、被害者の訴えを知って頂き、その救済の必要を求める世論を広げて頂くよう改めてお願いします。
公害の原点水俣病の被害者の切り捨ては、全ての公害被害者の切り捨てに通ずるものであり、その逆もまた真です。ノーモア・ミナマタ第二次国賠等請求訴訟への支援をよろしくお願いします。