内閣官房機密費の闇に一光の最高裁判決
1,はじめに
本年1月19日、最高裁第二小法廷は、内閣官房報償費(以下「機密費」という)の支出関係文書の一部について、その開示を命ずる判決を言渡した。
これまで国が、内閣官房機密費の支出関係文書については一切その開示を拒否してきたことに照らすと、その誤りを断罪したもので画期的な判決といえる。以下、この判決の内容や意義等について簡単に報告する。
2,内閣官房機密費と支出関係文書
まず、そもそも内閣官房機密費とはいかなるもので、その支出関係文書としていかなるものがあるのか念のため述べておく。
内閣官房機密費は、内閣の実施する施策等の円滑・効果的な遂行のために、内閣官房長官が高度の政治判断により機動的に使用することを目的として毎年14億円余り、毎月1億円余りの予算措置が講じられている。これについてはその使途に応じて「政策推進費」「調査情報対策費」「活動関係費」の三類型がある。その管理文書としては、「政策推進費受払簿」「支払決定書」「出納管理簿」等が作成されており、その他領収書等の帳票類がある。
今回、最高裁が開示を命じたのは、このうちの「政策推進費」の支出に関連「政策推進受払簿」とこれをいわば転記している他の文書の関係部分である。
この政策推進費は、内閣官房長官自らが管理・支出するもので、受取人の領収書さえ不要で、内閣官房に入金された報償費のうちから官房長官が「政策推進費」として区分けをすることにより、それで支出が終わったことになるという取扱いがなされる機密性の高いものである。従って、このシステムでは官房長官が不正に政策推進費を支出しても全くチエックしようがないことになる。その他の「調査情報対策費」はいわゆる情報収集の対価等、「活動関係費」は交通費、会場費等の経費のことである。
3,政策推進費の実態と受払簿の開示
かつて国会で報償費の使途を示す出納簿等が曝露されたが、その支出は法案を成立させるための野党、国会対策(背広を配布したり現金を交付したり)に使われたり、パーティー券の購入に使われる等、明らかに政治を金で歪める使途であった。そのため、そのような不正な支出を抑止するため支出関係文書の開示請求がなされたのである。
上記のような不正な支出の中心が官房長官自らが配布し領収書も不要とされる政策推進費であるところ、今回の判決は、この「政策推進費」関連文書部分に限定してその開示を命じた。その余の支出関連文書については、これを不開示としたが、その理由はいずれもその余の文書には相手方の氏名等の記載があったり(例えば領収書)、その使途を推定させるおそれのある各種情報が含まれているからとするものであった。
4,最高裁判決の限界
最高裁が開示を命じた政策推進費受払簿は下表の通りであるが、これを見てわかるように政策推進費受払簿は結局毎月の報償費のうちの政策推進費への組入れ額が判明するだけでしかない。従前これさえ不開示であったものが、今回の開示命令により、官房長官の支出の一定の抑制にはなるかも知れないが、支出の具体的使途は全く不明なままである。その意味では、政治を金で歪める支出の本当の抑制とはならないと言える。その意味で、この最高裁判決は画期的とは言え、大きな限界を抱えた判決である。
5,今後の展開について
少なくとも政治を金で歪める支出を抑止するためには、例えば、10年後には支出先を開示するなどの立法措置が不可欠である。諸外国ではそのような立法措置がとられている。この判決を契機としてそのような立法措置による情報公開の推進の必要性が明白になったといえる。