ヒゲの徳さんのたわごと② 古墳情報の公開請求訴訟の展開【其の一】
1.はじめに
私はもう20年近く前から古代の古墳に強い興味を持ち、実際に古墳巡りをしたり文献を多数読んだりしてきました。奈良県にある箸墓古墳見学に行き、三輪そうめんを食べたあとに、古墳の周りを一周すると「卑弥呼」の匂いがしたことがきっかけです。その趣味が講じて古墳情報の開示請求訴訟の原告にまでなってしまいました。
古墳をめぐる問題意識や訴訟の内容などについて何回かにに分けて報告させていただくこととします。
2.古代の天皇らの陵墓をめぐる根本問題
古代の天皇らの墓、宮内庁が天皇の祖先の礼拝の対象、祭祀の対象として税金を使用して維持・管理しています。そして、基本的には非公開・立入禁止とされているのが現状です。近時学会関係者による立ち入りが一部認められるようになりましたが、公開にはほど遠いのが実情です。古墳内に立ち入っても墳丘の裾部からの見学しか認めないようです。
さて、このような天皇陵等の現状が抱えている問題点は次の二点に集約されます。
まずは、第1の根本問題は、例えば宮内庁は堺市にある「大仙陵」を「仁徳天皇陵」として指定して維持管理し、世界遺産にまで登録されていますが、本当に仁徳天皇陵には仁徳天皇の遺骸が葬られているのかという点です。考古学者の間でも異論が多くあり、宮内庁はそのことを真摯に検証するつもりがまったくありません。神話の世界の「二二ギの命」や「神武天皇陵」まで指定して税金で維持管理しているのと共通する問題ですが、天皇の遺骸がないのにそれを礼拝し祭祀の対象としているとすれば、それは皇祖を愚弄するものであろう。そのような虚構のうえに立った陵墓の指定と維持・管理と税金の使用は違法ではないでしょうか。
またこの問題に付随して陵墓参考地の問題もあります。誰の墓か不明であるが天皇や皇族の墓の可能性があるとして陵墓と同じように宮内庁が管理しています。しかし、この陵墓参考地についてはそもそも法令上の根拠がないという問題があります。これまた法令に違反しているのです。
次の根本問題は、古代の天皇陵等は日本国民の共有財産とも言うべき文化財ではないか、文化財としての位置付けを明確にして保存と公開を進めるべきではないかという点です。古代史の解明、古代国家の形成を解明する上で古墳の学術的価値は極めて大きいのであり、宮内庁による管理は文化財としての天皇陵等の保存と公開をいたずらに制約しているのではないかという点です。
3.情報公開請求の展開について
私は、前記のような問題意識を持っていますが、皇室典範27条は、天皇・皇后らの墓を「陵」、皇族の墓を「墓」として、誰が埋葬されている墓が、どこに、どんな形状であるか等の情報を登録する陵籍・墓籍を作成するとしています。いわば天皇・皇族方の墓の住民票のようなもので宮内庁による管理のための基本情報です。ところがこの陵籍・墓籍は非公開であると考古学者の文献に記載されています。どう考えても隠すべき情報ではない、税金で維持・管理がされているのです。そういう気持ちで開示の請求を神武天皇から第41代の平城天皇までについて実施しました。すると天皇・皇后等の陵については全て開示されました。写真のようなものです。
実在を信じている人はいないであろう「ニニギの命」や神武陵についても住民票はあるのです。違和感が頭をよぎりますが、それをまずは置いておいて、なんと皇族方の墓籍については不開示決定がなされました。なんで、と見てみると墓籍は不存在・未作成というのが理由でした。そんな馬鹿なとの思いが頭をよぎります。天皇陵については陵籍があるのに皇族方の墓籍はないというのです。実は陵籍も墓籍も戦前の皇室典範令のときから作成が義務付けられた文書です。
これは訴訟で真相を解明しようと、墓籍はあるはず、作成されているはずということで、不開示決定の取消を求める訴訟に至ったのです。
訴訟の現状で明白になったことは、どうも本当に墓籍は作成されていないようだということです。すなわち、天皇らの陵については皇統譜がありそれが真実かどうかは別にして陵籍を作ることができた、しかし皇族の墓となると情報の欠如が激しく今更新しい情報の入手のしようがありません。真実の確認をしようとすれば結局は発掘でもしなければ不可能でしょう。そんなことから作成作業は行き詰まっており、今後の作成の予定さえ立っていないということです。
しかし考えてみると宮内庁はそのことを今まで公表したことはありません。森友事件では財務省が公文書を変造していたことが大問題となりましたが、宮内庁は法律上作成されるべき文書を作成せずそのことを隠したままにしておいて、それでも一方ではこの墓は皇族の墓だとして維持管理して立ち入りを禁止してきたのです。卑弥呼の墓ではないかという有名な箸墓は宮内庁によって孝霊天皇の皇女ヤマトトトヒモモソ姫の墓だとして現実に維持管理されており、立ち入りを禁止しているのです。ところが一方では法律上作成すべき皇族の墓の住民票たる墓籍は作らないままなのです。おおきな矛盾があります。
この国の行政情報の作成・維持・管理・公開は一体どうなっているのか。宮内庁、おまえもか、ということなのでしょうか。
続く