地震や台風などの自然災害による損害について<第2報>
昨日の第1報につづいて、ご相談が多くなっている「工作物の瑕疵」について解説します。
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
1.「土地の工作物」とは?
「土地の工作物」とは、土地に人工的に設置された物をいいます。
建物や看板、電柱などがこれにあたります。屋根や瓦、物置、屋外アンテナなど建物の付属物も含まれます。また、木や竹なども含まれます。
2.「瑕疵がある」とは?
「瑕疵がある」とは、その物が本来備えておくべき安全性を欠いていることをいいます。瓦や看板については、本来であれば、風で飛んでいかないようにきちんと固定しておくべきです。したがって、以前から外れかかっていたのに、きちんと固定していなかったというような場合には、「瑕疵がある」と判断されることになります。
他方、きちんと固定していたのに想定外の台風のために飛散してしまった、という場合には、瑕疵はなかった(=不可抗力だった)ということになりますので、たとえ他人に損害を与えてしまっても、損害賠償の責任は負いません。
3.「瑕疵がある」のか、「不可抗力」なのか
よく問題になるのは、「瑕疵がある」のか、それとも「不可抗力」なのか、という点です。
本来の安全性が備わっていたのかどうか、逆に言えば、以前から危なっかしい状態であったのかどうか、という点が問題になります。
次のような事情が判断のポイントになると思われます。
・以前から壊れかかっていたり、外れかかっていたか?
・周囲の他の家は大丈夫だったのに、そこの瓦だけが飛んでいるか?
・台風が最接近するよりもずいぶん前から瓦が飛び始めていたか?
・最大瞬間風速はどの程度だったか?
過去の判例では、次のような場合に、損害賠償責任を認めたものがあります。(福岡高裁昭和55年7月31日判決)
・最大瞬間風速は午後3時頃に風速38メートルだったが、まだ風速14メートルだった昼頃から瓦が飛び始めていた。
・近隣で2,3軒は瓦が飛んだ家があったが、問題となった家の屋根の被害状況がもっとも大きかった。
この事案では、問題となった家は、新築後8年半で、この台風以前には屋根瓦には異常はありませんでした。ちなみに、この事案では、1審の福岡地裁は、不可抗力だったとして損害賠償責任を否定していましたので、責任があるかどうか微妙な事案だったと言えるでしょう。
4.因果関係
損害賠償を請求するためには、何によって、被害を受けたのか、を特定しなければなりません。
飛んできた隣家の瓦が当たったためなのか、それとも、向かいの商店の看板が飛んできて当たったためなのか、どちらが原因なのかという問題です。
原因(因果関係)が特定できなければ、誰に対して損害賠償を請求できるのかが決まりません。
台風による被害の場合、この原因(因果関係)の特定が難しい場合が多くあります。
片付けをする前に、被害の状況や周囲の状況を写真にとっておくことをお勧めいたします。