地震や台風などの自然災害による損害について<第3報>
今回は、ご相談が多くなっている「借家」をめぐるトラブルについて解説します。
1 原則=貸主には修繕義務があります
建物の賃貸借契約とは、家賃を支払ってもらう代わりに、建物を使用させるという契約です。
つまり、貸主としては、借主に建物を使用させる義務があります。
建物が損傷してしまって使用するのに支障が生じている場合には、貸主は、建物を修繕する義務があります。
民法606条第1項
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2 修繕義務の程度は?
貸主としては、新築の建物と同じような状態にまで修繕する必要はありません。
借主がこれまでと同じように建物を使用するにあたって支障がない程度に修繕すればよいとされています。
3 貸主は修繕義務を負わない旨の特約は有効か? 借主において修繕する旨の特約は有効か?
賃貸借契約書において、「賃貸人は修繕義務を負いません」といった特約や、「入居後の修繕は賃借人の負担とします」といった特約が付されている場合があります。
民法606条は強行規定ではなく任意規定ですので、こういった特約をすることは有効と解されています。
したがって、このような特約がある場合には、貸主には修繕義務がありません(なお、借主にも修繕義務はありませんので、借主が修繕しなければならないわけではありません。修繕したいのであれば借主の負担で修繕してください、という意味です。)
もっとも、このような特約があったとしても、建物の構造や躯体にかかわるような大修繕については、やはり貸主に修繕義務があると解されています。
大修繕なのか、小修繕なのかは、ケースバイケースで判断します。
(大修繕の例) 雨漏りをしている屋根の修理、柱の根継ぎ
(小修繕の例) 畳の表替え、カーペットや壁紙の張替え
<2018.9.14追記>
なお、消費者契約法10条では、消費者の権利を制限する特約で、信義則に反する程度に任意規定から逸脱するものは無効だとしています。
借主が事業者でない場合には、この消費者契約法10条が適用される可能性があります。
4 貸主が修繕義務を負わない場合
以上のように、貸主は建物の修繕義務を負うのが原則ですが、例外的に、建物の損傷が激しくて修繕するには多大な費用を要するような場合には、もはや修繕の可能性がないとして、貸主は修繕義務を負わないと判断される場合もあります。
ただ、判例上は、このようなケースはごく例外的な場合に限られています。
全面的に修繕すると多額の費用がかかる見込みであっても、借主の生活に支障がない範囲で最低限度の修繕だけであれば、そこまで費用はかからないのであれば、その範囲で貸主は修繕義務を負うことになります。
なお、市町村によって「全壊」と認定されたからといって、それだけで修繕が不可能だと言うことにはなりません。
修繕が可能かどうかは、損傷箇所や損傷程度、修繕に必要な工事内容とその費用がいくらなのか等によって、ケース・バイ・ケースで判断されます。
5 貸主からの明渡請求について
建物が損傷してしまった場合に、貸主から、「この際、建物を取り壊すので、明け渡してほしい」と要求することはできるでしょうか?
まず、多大な費用をかけなくとも修繕が可能である場合には、貸主には修繕義務がありますので、修繕を拒否して明け渡しを求めることはできません。
他方、上述のように、建物の修繕に多大な費用がかかる見込みであれば、貸主としては修繕義務を負わない場合があります。
この場合、貸主から、賃貸借契約を解除して、明け渡しを請求することも考えられます。
ただし、建物の賃貸借契約を貸主側から解除するためには、「正当事由」が求められます。
「正当事由」の有無は、建物の損傷の程度、修繕の可能性、修繕にかかる費用などの事情や、貸主が借主に対していくらの「立退料」を支払うのか等によって、総合的に判断されます。
なお、「正当事由」が認められて、貸主から賃貸借契約を解除した場合、6ヶ月後に契約が終了して明け渡さなければなりません。
また、建物が現実的に滅失してしまった場合(地震によって屋根・壁・柱などがすべて壊れてしまったような場合)には、もはや修繕は不可能ですので、賃貸借契約はその時点で終了となります。
実際のケースでは、建物の損傷の程度や修繕の可能性をめぐって、貸主の言い分と借主の言い分が食い違う場合がよくあります。
まずは、損傷の状況を詳しく写真などで記録しておいてください。
6 地震や台風に乗じた明渡請求にご注意ください
今般の地震や台風によって建物に被害が生じたことに乗じて、貸主から、「危険だから出ていってください」などと明け渡しを要求されるケースが相次いでいます。
なかには、悪質な「地上げ業者」が介入してきて、壊れた建物の修繕を拒否して、立退料も払わずに、「いますぐ出ていけ」としつこく嫌がらせをするようなケースもあるようですので、ご注意ください。