大阪医科薬科大学労働契約法20条事件が日本労働弁護団賞を受賞!
11月8~9日に岡山で日本労働弁護団の総会が行われました。
総会にて、当事務所の鎌田・谷弁護士も代理人を務めている大阪医科薬科大学労働契約法20条事件が日本労働弁護団賞を受賞しました。
授賞式での谷弁護士のスピーチを紹介します。
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この度は,大変栄誉ある労働弁護団賞をいただき本当に光栄です。ありがとうございます。
先ほどありましたように,原告の方は元々私が事務所のホームペ-ジに労契法18条から20条の解説連載記事を書いたのをみて,相談にこられたのがきっかけでした。
隣の研究室の正職員と全く同じ労働日・労働時間で同じ研究室秘書という仕事をしていること,提訴するまで年収差はどれくらいあるのかもわかりませんでしたが,正職員には賞与一律支給なのに有期のアルバイト職員には全く支給されていないことから,直感的にこれはいけるのではないかと思いました。ちょうど労契法20条が施行された2013年から働き始められたということで,運命も感じました。しかし職場には非正規労働者が入れる労働組合もなく,正職員の労働条件につき厳密なところが中々わからないことや,基本給や賞与も対象にして敗訴する場合の影響等から時効中断の内容証明を出して時間を稼ぐなどして検討を続けていたのですが,その間に郵政やメトロコマースの提訴報道もあり,その流れにのって提訴しました。
ひとえに私の勉強不足なのですが,提訴当時は比較対象労働者の問題がこんなに大きな争点になるとは全く想定していませんでした。隣で同じ仕事をしている方とこんなに労働条件に差があるはおかしい,というところが出発点なのですから,まさか全体と比較するなどという主張が出てくるとは思っていませんでした。裁判で争点になってから,一生懸命,弁護団内外の弁護士や研究者とも意見交換して主張することになりました。
地裁判決は大阪地裁の労契法20条の第1号判決になったのですが,郵政東京地裁の判決もありよい流れの中ではありましたが,判決まで裁判官の感触がよくわかりませんでした。判決では全面棄却で,その内容も新規採用1年目の正規労働者で倍の年収差があっても,アルバイト職員である原告の努力と能力で克服可能なのであるから不合理ではない,という本当にとんでもない判決を受けてしまいました。自分なりにはこの事件にかけていたつもりでしたが,弁護団でも議論が不足していたように反省しました。
大阪の民主法律協会で弁護団も拡充してもらい,心ある研究者の先生とも何度も意見交換をし,論文も書いてもらう中で,高裁で絶対に逆転するという強い体制を整えました。
高裁の審理で転機になったのは,やはりハマキョウレックス事件の最高裁判決です。当たり前ですが相当意識をされていて,審理の雰囲気は本当にがらっと変わりました。高裁では4回の期日後に結審し,その後相当熱心に和解協議が行われました。ただ裁判長がそこで地裁判決は見直すと公言していたこと,結審直前にかなり細かい損害計算について裁判所から釈明を求められていたことから全面敗訴はないだろうと,ただどこまで見直すかが問題で,裁判長も比較対象は難しい,また賞与の問題もとても難しい,手当に近づけるのか,基本給に近づけるのか,主任裁判官はまさにこれはブルーオーシャンですね,と言っていました。簡単ではないとは思いましたが,やはりあの地裁判決を残すわけにはいかない,ここまできたんだから高裁の判決をとろうと原告・弁護団・組合で一致をして,一生懸命してもらったが和解はできない,公正な判決をもらいたい,と裁判官に伝えました。裁判官たちもすっきりとした顔をされていたように思います。判決の日,主文を聞いた瞬間に,原判決を変更すると,また100万円を超す損害賠償が命じられた,ということで,これはすごく前進した逆転判決になったのではないかと身が震えました。その後の判決内容はみなさんご存じのとおりです。
私自身はこの事件を通して弁護士として十分なことができたとは思っていないのですが,あえていいましたらこの事件を埋もれさせず,当事者に裁判に立ち上がってもらうことができた,またあんなひどい地裁判決にもかかわらずその後も闘い続けてもらうことができた,そこにあると思っています。原告の方は,必ずしも家族から応援してもらえていたわけではありません。打合せや各地での訴え,研究会への出席等で家を空けることも多く,もうこんな裁判やめるよう何度も言われました。しかもあんなひどい地裁判決でもありました。それでも原告は控訴します,最後までがんばりますと言って控訴審を闘う決意をしてくれました。労働組合とも労働運動とも無縁だった原告がここまでがんばれたのは,同じく裁判をたたかう日本郵便の原告や労働組合のみなさん,メトロコマースの労働者のみなさんのほか,多数の非正規労働者の闘いがあり,励まされたからです。特にメトロコマース事件は同じ女性労働者であり,地裁判決が同じくひどかったこともあって,原告の本当に大きな支えになりました。大阪の民主法律協会でも非正規労働者たちが集う研究会があるのですが,そこでもいつも励まされたことが本当に大きかったと思います。弁護団だけでなく,労働者が地域で全国で連帯して力を合わせて,肩を寄せ合って闘うということで,少しずつでも道を切り拓いていけるということを,身をもって実感しました。私自身にとっても間違いなくこれからの労働弁護士としての糧になる事件になっています。
ただまだ最高裁で審理が係属しています。メトロコマース事件と同じ第三小法廷にかかっており,何らか判断される可能性もあるかと思います。非正規にも賞与を,合い言葉に,この高裁判決の判断をどうしても確定させなければいけません。
これからも全国の皆さまと連帯して頑張っていきたいと決意をしまして,ご挨拶とさせていただきます。
どうもありがとうございました。