日立造船(株)の若手社員がタイへの長期出張中に自死した事例が労災として認められました
1 事案の概要
日立造船(株)に勤務した若手社員が、タイに転勤したことや、それに伴う業務内容の変更や環境の変化、慣れない業務への叱責や長時間労働等を余儀なくされたことなどのストレスにより最終的に自死したことに関して労災請求していた事案で、大阪南労働基準監督署において労災として認められました。
本件は、いわき総合法律事務所の岩城弁護士、松村弁護士、かねだ法律事務所の安田弁護士、当事務所の西川が担当しました。
2 労災認定までの経緯
日立造船(株)に勤務する故上田優貴さん(当時27歳)は、タイに転勤中の2021年4月30日に、高さ約30メートルの現地プラントから自ら身を投げて自死するに至りました。
当初は、故上田さんの母親である上田直美さんが会社の担当者と面談を事態の真相を明らかにしようとしていましたが、会社は「自死であるか転落事故かどうかわからない」、「(過労死ラインを超えるような)長時間労働もない」といった説明でした。
我々代理人が就任したのちに、代理人から会社に対して故上田さんの現地での働き方や業務内容の変化、労働時間の管理方法等についての照会をかけるとともに、会社から資料を提供してもらいました。
また、上田直美さんとともに、会社に対して、故上田さんの自死の真相を追及する第三者委員会を設けるように働きかけました。
会社の回答や提供された資料を代理人が分析した上で、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に基づき、本件が被災労働者にとって心理的負荷の強度が「強」であることを示す意見書を作成して、大阪南労基署に膨大な資料とともに意見書を提出しました。
これによって、大阪南労基署において、概ね意見書に沿う事実が認められて、労災(業務に起因するもの)として認められました。
3 本件の意義
近年、グローバルな大手企業において、若手社員に経験を積ませる目的で、早い段階で海外に転勤させることが増えています。
しかしながら、会社のフォローが十分でない中で、いきなり海外に転勤させられた労働者は、海外での生活環境や文化の変化、言語の違い、業務内容の変化、人間関係の変化等による心理的負荷等により精神障害を発症する事例が多々見られます。
本件においても、故上田さんは、2018年4月に入社してから3年目の、2021年1月20日にタイに渡航し、高温多湿の環境下で、タイ語を話すことができず言語の違いに苦労し、これまで経験したことのない業務を現地で対応させられました。さらに、経験のない業務によりミスが生じた際には厳しく叱責され、現場では長時間労働を強いられたことにより精神的に追い詰められ、最終的に27歳という若さで自死するに至りました。
故上田さんは、亡くなる直前に、「一日三行ポジティブ日記」というタイトルで日記をつけていました。その中でも「今、オレは仕事がぜんぜんできなくて、毎回おこられてばかりでとてもつらい」などと慣れない仕事に対応を苦慮していたことや叱責されていた様子が述べられています。
本件は、労基署が転勤に伴う業務内容の変化や文化・環境の変化、言語の違いや孤立した状況等に置かれた被災労働者の具体的な状況を適切に評価し、被災労働者の精神障害の発症ないし自死に至ったことを労災として認めた点で意義があるといえます。
※本件は3月25日に記者会見を行い、複数のメディアで報道されました。
- 日テレニュース
https://www.youtube.com/watch?v=4I83_MQEa58
- MBSニュース
https://www.youtube.com/watch?v=DNK4aWc42fo
- KYODO NEWS
https://www.youtube.com/watch?v=xtnEwA61rHg
- 関西NEWS WEB