違法派遣等の直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達の情報公開請求訴訟を提起
2015(平成27)年10月1日,違法派遣やいわゆる偽装請負等の派遣法違反があった場合に,派遣先(偽装請負の場合は発注者)と派遣労働者との間の直接雇用を可能とする直接雇用申込みみなし制度(派遣法40条の6)が施行されました。
これは,新自由主義的政策により派遣労働者などの非正規雇用が増大し,その後リーマンショック時に大量の派遣切りが起こった反省から,派遣労働者保護のためにはじめてできた法制度です。
この制度は,民事裁判で直接雇用を実現することができるだけでなく,監督機関である都道府県労働局が調査し,企業に対し助言や指導等を行うことができる権限も定められました(派遣法40条の8)。
しかしながら,直接雇用申込みみなし制度が施行された後,派遣労働者の権利を守る法律家団体が関与した事案で,これまで積極的に調査や是正指導等がなされていた違法な偽装請負等について,都道府県労働局が指導を行わなかったり,あるいはそもそも調査自体を行わないという,信じがたい態度をとる例が続きました。
同団体では,厚生労働省や担当労働局へのヒアリングや要請等でその見解を質したところ,説明が食い違ったり,二転三転するなどしたあげく,結局,労働局の消極的な態度は改められませんでした。
また従前は,是正申告事案では労働局は調査状況や結果について,申告した労働者の要望があれば伝えていたにもかかわらず,「調査中なので言えない」,「結果の詳細も言えない」,「理由も言えない」などとして何も説明しないようになり,一体誰の方を向いて労働行政を行っているのかという疑問が膨れあがりました。
このような労働行政の変わりように触れ,上記団体に所属している私は,すでに公開されている通達や取扱要領等の行政文書のほかに何か労働局を消極的にさせる文書があるのではないかと思い,2019(令和元)年12月,厚生労働省及び大阪労働局に対し,内部文書の情報公開請求をしたところ,厚労省内に大量・詳細な指導監督マニュアル(取扱厳重注意)や派遣法40条の8に関する直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達(部内限)が存在することが判明しました。
しかも内部通達については,何と,上記団体の厚労省等への申入れ等の直後に改正されていたことがわかりました。
しかしながら,これらの開示文書はいわゆる「のり弁」で真っ黒でした。ほとんどの部分が「開示されると監督対象となる事業者が対策をとり適正な監督が行われなく恐れがある」という理由で不開示(マスキング)とされたのです。
本来,派遣労働者の保護・救済という制度趣旨に沿い,積極的に助言や指導がされなければならないにもかかわらず,逆にそれが後退しているのではないかと疑われる状況にありながら,その前提となっていると思われる行政文書すら開示されなければ,このような労働行政のあり方を検証することすらできません。
そこで,2020(令和2)年6月16日,内部通達の不開示部分について,その不開示決定は違法であるとして,大阪地裁に対し,情報公開を求める訴訟を提起しました(指導監督マニュアルについても,行政不服手続である審査請求を行っています)。
原告は私ですが,民主法律協会の派遣労働問題研究会のメンバーで取り組んでいます(当事務所の安原邦博弁護士及び西川翔大弁護士も代理人です)。
真の労働者救済に視する適正な労働行政の実現につながる訴訟ですので,ぜひ今後もご注目ください。