黒川検事長の定年後の勤務延長についての政府説明のウソが裁かれた!
★はじめに
東京高検検事長であった黒川氏は、2020(令和2)年2月7日に定年退職予定でしたが、1週間前の1月31日に閣議決定により半年間の勤務延長が実施されました。
検察官には国家公務員とは異なり定年後の勤務延長制度(国公法81条の3)の適用がないという解釈が1981(昭和56)年以降40年余りも維持されてきたのに、突然にこの解釈を2020(令和2)年1月31日の閣議決定に先立つ1月17日に法務省として決定し、さらに同月24日までには関係省庁とも協議・了解を得て、政府としての解釈変更を確定させるという異様なスピードしした。
誰が見ても、何か裏がありそうということになります。
★訴訟の提起
その後、2020(令和2)年の通常国会に、検察官にも国公法の勤務延長規定を適用する改正案が提出されたことから、検察官の独立性を侵す解釈変更を合法化するための法案だとして大きな世論の批判が高まり、元検事総長らも反対の意見書を発表するに到り、この法案は廃案となりました。
本件訴訟は、この解釈変更は、時の安倍政権の守護神とまで評された黒川東京検事長を検察庁内の人事慣行に反して検事総長にするための伏線でないかとして、その真相を明らかにするために提訴された情報公開請求訴訟です。
加計学園、森友学園、桜を見る会事件と市民からの刑事告発が相次いでいた中だけに、如何にも怪しげでした。
★元法務事務次官辻証人の尋問の実施
前記の1月17日に作成された法務省内の解釈変更の説明文書には、作成の日付も作成者の記載もないうえに、解釈変更の必要性の説明もなく、単に解釈の変更が可能であるとの条文の解釈論のみが記載されていました。解釈変更の実質的な必要性の説明もないものでした。人事院は、この文書を示されたが、解釈変更の必要性の説明は受けていないと公然と述べるという始末で、政府内部においても合意形成の手順を踏んでいない、言わば「天の声」が働いていたことを匂わさせるものでした。
そして国は、この解釈変更文書は、黒川氏の勤務延長を目的とするものではない、検察官全員について勤務延長を目的としていた、理由は言えないがその後わずか1週間の間に黒川に適用することになった。と主張し続けたのです。
黒川への適用の決定などの時期等は、人事上の秘密で一切明らかに出来ないとの対応でした。
そして遂に、解釈変更当時の法務事務次官であった辻証人尋問の実施となったのです(同人は仙台高検検事長でしたが、なぜか辞任して法廷に出頭することとなりました)。
辻証人に対する尋問では、職務上知り得た秘密として証言を拒否するであろうと想定されたことから、黒川目的以外にはあり得ないとの周辺事情の押さえと、証言拒否の連発で真実を隠していることを浮かび上がらせる尋問の両面作戦を実行しました。
黒川目的以外あり得ないことの周辺事情としては、検察官一般のための解釈変更でありながら、全国の検察官に周知・告知されたことは一切なく、解釈変更の適用された検察官としては解釈変更後のわずか数日後の黒川検事長のみであること、国公法の勤務延長を法案化しているのに、その前に急いで解釈変更を実行していることなどが、辻証言からも明白になりました。
一方、具体的に黒川への解釈変更の適用の過程の質問をすると、それは職務上の秘密として一切証言を拒否するばかりで、「不都合な真実」を隠しているという証言態度でした。
裁判長は、辻証人に対する補充審問で何と2回にもわたり第三者的に見ると「黒川さんの定年退職の日に間に合わせるように」解釈変更したと思える、あるいは「法改正が実現する前に勤務延長を実施してしまうというところについて違和感を感じる」との質問まで発するに到ったのです。
★政府(法務省)の説明はウソと断罪
2024(令和6)年6月27日に大阪地方裁判所で言い渡された判決は、本件解釈変更の目的は、「合理的に考れば、定年退官を間近に控えた黒川検事長の勤務延長を行うことしかあり得ないというべきであって、それ以外に納得し得る理由や目的を見いだすことは困難である」と判示し、辻証言についても、「政府内でのごく短期間での解釈変更という方法は、…あまりに唐突で強引なものであり、不自然である」とも判示しています。
判決が言いたいことは、実質的には、辻証人はウソをついている、政府(法務省)の解釈変更の説明はウソだと判示しているに等しいものでした。この辻証言と同様のウソの説明を政府は国会で国民に向かって平然とこれまでもくり返してきたのです。ウソの上には何も築けないし、築かさせるべきでもありません。
今こそ、国会などでの真相の究明によって、二度とこのような国政のゆがみが生じないようにすべき時です。
★情報公開訴訟の効用
この判決は、国政のゆがみを司法の場で明らかにすることができるということ、しかもたった一人の原告(上脇教授)で、ということを示したもので、情報公開請求訴訟の効用が生かされた名判決であったと言えます。
(弁護団は、当事務所からは他に谷真介弁護士)